くだらない小噺を書いてみます
アリの子、アリコが生まれた年の冬、あるキリギリスが訪ねてきました
「すみません 今晩停めてくださいませんか? あと何か食事を恵んで頂ければ・・」
しかし、アリコの両親は冷たく断りました
アリママ「うちには余分な食料もベッドもありません」
アリパパ「お前は夏の間、働きもせず、バイオリンを弾いて遊んでいるからこうなるのだ 我ら勤勉なアリは暑い夏に汗水流して働いて蓄えてこうして冬を越せるのだ お前に施す余裕などない 悪いが帰りたまえ」
アリコはキリギリスが好きでした キリギリスの弾くバイオリンに憧れました
アリパパ「倅よ、アリは勤勉にコツコツ働いて冬に備えて蓄えなければならない あのキリギリスの哀れな末路をよく憶えておくんだぞ」
キリギリスはその冬 凍死してしまいました
冬が終わり、アリコは若者になり、両親の言いつけを守って働き始めました
そしてコツコツとお金を蓄えました
しかしアリコはあまり幸せではありませんでした
アリコはキリギリスに憧れていました 正確にはキリギリスの弾くバイオリンに憧れていました
そこで、貯めたお金でバイオリンを買いました
これで僕もキリギリスになれると思い嬉しかったのです
早速アリコはバイオリンを弾いてみました
「ギーギー」ひどい音でした
アリコは愕然としましたバイオリンさえ購入すれば、あのキリギリスのようになれると思っていたのです
アリパパ「働いたお金でこんなくだらないものを買いおって! 冬に備えてしっかり蓄えなきゃダメじゃないか!」
アリパパに怒られたアリコはバイオリンを売却しようとヤフオクに出品しますが、元値の1/2でも誰も入札しません
ハードオフに持っていくと1/100の見積もりだったので、勿体なくてやめました
アリコはどうしてもバイオリンを諦められませんでした
それで昼間は働いて、夜はバイオリンを懸命に練習しました
やがてきれいな音が出るようになり、曲も弾けるようになりました
そしてある朝、アリコは脱皮しました
鏡をみるとアリではなくて、キリギリスになっていました
嬉しくなったアリコは働きにいかず、街に出て路上ライブよろしくバイオリンを弾きまくりました 本当に楽しかったのです
これに両親が激怒しました
アリパパ「お前は陰でバイオリンなんぞ弾いて遊んでいたんだな! しかもそんなみっともない姿になりおって!」
アリママ「働かないと一定の収入は得られないのよ 寒い冬をどう乗り越えるの?」
アリコは怒られてシュンとしましたが、どうしても好きなバイオリンはやめられませんでした
そこで、ベンチャー会社に転職し、週に3日は正社員として働き、残りはバイオリンの練習と路上ライブに明け暮れました
そのうちにアリコの路上ライブは人気が出始め、1000蟻ほどの集客ができるようになりました
アリコのバイオリンケースはすぐにおひねりでいっぱいになったのです
寒い冬がやってきました
アリコはバイオリン演奏で得たお金で買った家に住み、ぬくぬくとした老後を過ごしていました
身体は思うように動かなくなり 冬が過ぎてももう路上ライブはできそうもありませんが、路上ライブを収録したDVDがある程度売れていて、そこからもお金を得ていましたのでそれほど心配はありませんでした
あのキリギリスだって、夏の間ただ遊んでいたわけではなく、多少はバイオリンで稼いでいたでしょうし、若いころはバイオリンの練習をしっかりやっていたのでしょう
ただ、冬を越せるほどの利益は上げられなかったのだと・・・・
そんなことを思いながらアリコは安らかな眠りにつきました
おしまい